2016年2月24日水曜日

<ケーススタディ>ANAのサービスはなぜ凄いのか(2)

今回、乗務員の方々に色々と話を伺っていたら、何と最後にメッセージまで頂いた。非常に感動した



前回の続き)
何をすれば社員のモチベーションを上げることができるのか。これは経営者の永遠の課題ではないだろうか。多くの場合はボーナス等、金銭的なインセンティブにより、これを解決しようと試みる。だが、有名なマズローの欲求5段階説にもあるように、金銭によるモチベーション向上効果は一定レベルに達すると頭打ちになる。
 一定の給与水準を達成した社員はさらに金銭的報酬を与えることでは満足させることはできない。では何をしたら良いのか。答えは彼らの承認欲求を満たすことである。どれほど自分の仕事が会社の役に立っているのか、さらには社会の役に立っているのかということがさらなるモチベーションに繋がる。


改めて振り返ってみると、ANAではこの承認欲求を満たすという目的で緻密な手が打たれていたことに気付く。例えば、着陸後、降機する際に機内で流れる「降機ビデオ」

私はたまたま飛行機が好きなので乗る度にこれを見ていたが、はっきり言って、飛行機を降りる際にしか流れないビデオをじっくりと見る乗客などほとんどいないだろう。だが、中には必ずじっくりと見る人もいる。社員である。このビデオには、オペレーションを支える社員一人一人の姿が映し出されている。


また、社員が考えたキャッチコピーをスローガンに採用したという『あんしん、あったか、あかるく元気』キャンペーン(2007年〜)


そして、恐らく倒産したJALとの差を打ち出すことが目的で行われた、これまでのANAの道のりを振り返る『きたえた翼は、強い。』キャンペーン(2010年)。

これらのTVCMはいずれも顧客の便益を説明するというよりは、自社の考えや姿勢を描いたものだ。私は当時、テレビで目の当たりにした際は「何て自己満足的な広告だろう」と思っていた。だが、それで良いのだ。だって、社員が相手なのだから。


降機ビデオにもTVCMにも共通して言えるのが、社長や役員の姿などは無く、主役は社員(それも働いている姿の)だということだ。これは、事業の社会的意義を述べると共に、その実現に社員一人一人の努力が如何に重要であるかを会社がはっきりと認識し、評価しているのだというメッセージを発信しているものと言える。社員の側からしたら、自らが日々汗水たらしてあたっている仕事がドラマチックな映像で社会に発信されているのだから、これほどインセンティブになるものは無いだろう。家族や友人にも「ANAで働いている」と胸を張って言えるに違いない。
広報に経営陣や自社ビルの写真ばかりを載せて、一般の社員の姿は出さない企業も多いが、こういった点にこそ、社員を信頼しているか、或いは社員のことを尊重しているかということが顕著に表れる。


また、先に述べた機内の飾り付けの件からは、社員が単にマニュアルに従うだけでなく一定の自由と権限を与えられていることが推察できる。社員は、自ら何が大切か考え、行動し、そしてそれに対する周囲からのフィードバックを得て、さらに工夫し努力することができる。社員を縛るのではなく、彼らを信じ、任せることで、アイディアと能力を引き出しているのである。何とレベルの高い組織なのだろう。


航空業界は治安、災害、景気、燃料価格等の影響を受け易く、ANAも決して順風満帆な訳ではない。特に、内需の伸びが見込めないという点で日本の航空会社はハンデを負っている。この為、同社は国際線に軸足を置き、特に成田空港をハブとしたアジア−北米間の国際線乗継需要を取り込もうとしている(他にはPeachVanilla Air等の子会社を通じたLCCビジネスにも力を入れている)。世界最高レベルのサービスは、きっとこの戦略の実現に大きく貢献することだろう。だが、最近はボーイング787をはじめとする最新鋭航空機の航続距離が大きく伸びたことによって、従来は経由便でなければ到達できなかった都市にもノンストップで行けるようになっており、ハブ&スポークを前提としたゲームそのものが変わりつつある。つい最近も、ユナイテッド航空が成田経由で運行していたニューヨーク− シンガポール便のノンストップ化を発表した。北米から見てアジアの玄関口にあった日本の地の利が、技術革新により霞んできているのである。従って、ANAが実際にどこまで顧客を取り込むことができるかは、依然未知数と言える。ただ、少なくとも私は、上記の例で言えば、相当時間に縛りが無い限り、サービスの劣悪さで名を馳せるユナイテッド航空の直行便よりは、時間が掛かっても素敵な体験のできるANAの経由便を利用したいと思っている。

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