2018年5月19日土曜日

<総括12>総括の総括(2)―Konstruktionspunkt―


さて、このブログのタイトル『 Konstruktionspunkt  - K点 コーネルMBA を越えて』は、
  • スキージャンプ競技のK点とは元々、これ以上飛ぶと危険という点を示す『Kritischerpunkt(極限点)』だったのが、選手の技術進歩によりK点を飛んでもあまり危険でなくなった為、いつの間にか、これくらい飛んで当たり前という点を表す『Konstruktionspunkt(建築標準点)』の意味になってしまったこと
  • 私にとってコーネル大学は雲の上の世界、まさに『極限点』だったが、2年の間にジャンプのK点と同様に、気付いたら人生の『標準点』になっている程の飛躍を遂げたいと思っていたこと
を念頭に命名した。
日々の苦労は極めて多かったものの、結果的に、私にとってコーネルMBAはもはや雲の上の存在では無くなった。前回の投稿に記載した通り、今となっては、別に何か凄いものではないと感ずる。と言うか、卒業しても依然「MBA凄い!」などと言っていたら、それは進歩が無かったことの証左だと言えるのではないか。そうは言っても、コーネルMBAで自身が頭が良くなり優れた人間になった訳ではなく、コーネルには多くの超優秀なクラスメートがおり、彼らには今も追い付けている気がしない。ただ、その厳しい現実を踏まえた上で、自分ならではの戦い方ができるようになったと思うのだ。

コーネルに入る前は、どのような人生を歩みたいのか、それが現実的に可能なのか、そもそも自分にはその能力があるのか等が良く分かっていなかった。だが、2年間の悪戦苦闘を経て、自分の強み・弱みを認識した上で、これまでのキャリアとコーネルでの経験をベースに、今後どのような方向に進むべきなのかあるいは進むことができるのかということが、今はよりクリアに見える。コーネルでの経験をベースに未来を描くからこそ、MBA取得はあくまでも「標準点 - Konstruktionspunkt」としか感じられなくなる。 

スキージャンプでは、オリンピックで見るノーマルヒルやラージヒルのような巨大な台をいきなり飛ぶ訳ではなく、初心者はスモールヒルと呼ばれるK点45m未満の滑り台のような台から練習を始める(それでも最初はかなり怖い)。そこである程度飛べるようになると、ミディアムヒル(K点45m〜74m)へ行き、ノーマルヒル(K点75m〜99m)、ラージヒル(K点100m〜169m)、そして究極的にはK点170mを超える世界に6台しかない超巨大ジャンプ台・フライングヒルへと徐々にステップアップしていくこととなる。ステップアップの為には、筋力トレーニング、バランストレーニング、イメージトレーニング、そしてジャンプ台でのジャンプトレーニングという日々の積み重ねが欠かせず、見た目の華やかさとは逆に、極めて地道で泥臭いプロセスを踏むこととなる。MBAもジャンプ台の中間形態と同様に、一つのステップでしか無く、さらに大きなものに挑戦する為には、その後も日々地道な努力を積むことが不可欠なのだと感ずる。

早くも4年近く前になってしまったが、イサカに到着した日のことは今でも鮮明に覚えている。7月の少し強めの陽光の下、 アパートのドアを開いた。ヨレヨレのカーペットにくすんだシンク。壁は日本と違って壁紙は無く、ペンキが直に塗ってある。静まり返った部屋なのに、年季の入った冷蔵庫の音だけが異様に大きい。湿気が高く、スーツケースを2つも運んできたので、息苦しい。家具も食器も食糧も何も無かったが、買い揃えて家の中を徐々に満たしていくのと平行して、自分の人生もきっと新しいもので満たされていくのだとワクワクしていた。まさに、人生の新たなる一ページを開いたのだという希望で胸が一杯だった。

その時は、コーネルMBAこそが私にとって新しい大きなジャンプ台だった。このジャンプ台から飛んだらどのような景色が広がっているのか楽しみで仕方がなかったのである。だが、それも2年間の時を経て満足に飛べるようになった。その台のK点はもはやKritischerpunkt(極限点)ではない。だから、今、さらに大きなジャンプ台を見つけ、それにまた挑戦していきたいと感ずる。新しいジャンプ台のKritischerpunkt(極限点)を Konstruktionspunkt(標準点)に変えるプロセスを繰り返し、全く違った美しい景色を見ることができるようになりたいと思うのである。

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