White Houseより |
この問いに対しては政治に詳しいクラスメートが興味深いことを語っていたので紹介したい。以下彼とのやりとりを記載する。
私「なぜ、“Freedom“ “Liberty” “Justice”といった理念が国民の間に浸透している にも関わらず、真逆のことを言って支持を集めることができるの?」
友「漠然さを逆手に取って利用しているからだ。例えば不法移民について言えば、支持者の論理では、不法移民を許さず法の下で「正しく」暮らしている米国民の権利を守ることこそが正義であるという話になっているよ。人種差別についても「米国民は不法移民やテロリスト達による深刻な脅威に晒されている。人種差別をしようとしているのではなく、その脅威を取り除こうとしているのであって、まさに”Liberty”を守る為の”Justice”に則った行動だ」というのが彼らの主張だよ。」
私「不法とは言え移民排斥を訴えたり、人種差別発言を公然と行ってもなぜ支持率が落ちないの?」
友「面白いのは合法的に米国民になったヒスパニック移民の多くがトランプを強く支持しているということだ。彼らも米国民になった途端、自分たちの地位を守りたくなるんだろうね。不法移民がどれだけ抗議活動をしたとしても、実際に選挙権を行使できるのは、彼らではなくてあくまでも元々住んでいるあるいは合法的に移民してきたアメリカ人だけだ。トランプはそこを良く分かっていて、彼らに訴えかけているんだろうな。」
私「輸入品に対する関税を大幅に上げるとか、TPPへの参加を取り止めるとかいうのはマクロ経済学を真っ向から否定しているのではないの?」
友「自由貿易を通じてアメリカ全体としては産業の新陳代謝が進んで、経済発展が見込めるのは当然。ただ、経済全体の発展によって利益を受けることのできるはエスタブリッシュメントや新たな産業をまたいで転職できる有能な人々だけであって、末端の労働者は関係ない。自動車工場の生産ラインで働いていた労働者が、外国製品に押されて会社が潰れて、その代わりにシリコンバレーでテクノロジー企業が益々成長したからと言って、突然エンジニアになれると思うかい?だから彼らは自分の仕事がもはや時代遅れだとわかっていても、それを守ることに必死なんだ。」
私「オバマ政権は何だかんだ言っても、金融危機から脱却して堅実な経済成長を実現して失業率は大幅に低下した。アメリカ経済はヨーロッパや日本と比べると圧倒的に強い。なのに、どうして叩かれているの?」
友「さっきの話と同じで、経済成長をして新しい雇用が生まれていても、既存産業で失業した人がその新しい仕事に就ける訳ではないから、彼らは支持しない。あと、野党(共和党)がしつこく政権批判を繰り返すから、人々もそれに同調しちゃっているのかな。大不況や中東問題などオバマ政権が就任直後から直面した問題の多くに対して責任を持っているはずなのは彼らなのにね。」
今回の大統領選はあまりにもこれまでアメリカという国が世界に示してきた姿と異なり過ぎて、荒唐無稽にすら感じる。だが、一方で我が国にも対しても非常に示唆に富む選挙だ。
それは格差社会のもたらす結果についてだ。今回の大統領選では、世代間・階層間格差が広がり過ぎた結果、人々が半ば自暴自棄になっている様子が見て取れる。メキシコとの国境にメキシコ政府の負担で壁を設置することが現実的で無いことなど支持者でもわかっている。行き過ぎた格差は是正されるべきだが、アメリカはオバマ政権下で、リーマン・ショックからいち早く復活し、世界の先進国と比しても圧倒的に経済成長してきた上に、IT・医療・金融等の先端産業で世界をリードするどころか引き離しており、懐古主義に浸る必要など全く無い。トランプ・サンダース支持者は単純にとにかく既存の枠組みに対して吠えてくれるような候補者を、怒りに任せて支持しているだけに見える。
ここから得られる教訓は、格差が広がって怖いのは、単に貧困層が増えることでは無く、政治そのものの正常な意思決定能力が奪われることだ。荒唐無稽な政策であればあるほど、自暴自棄になって急進的な変化を望む人々にとっては魅力的に映る。これは極めて危険だ。もっとも、シルバーデモクラシーの我が国では、若者に選挙で政治をひっくり返すだけの数の力はなく、間違いなくこれからもその傾向は続く。現行の制度化ではどんなに不公平な扱いを受けようとも何も出来ない。だが、本当に不満が頂点に達した時、それでも彼らは民主主義のルールに則って引き下がるのだろうか。トランプ・サンダース旋風とは比較にならない程恐ろしい結末が待っているかも知れない。
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