(本稿ではデロイト トーマツグループより2019/6/25に発行された「Bリーグ マネジメントカップ 2018」の中より、私が執筆した記事を転載します。著作権は同グループに帰属します)
日本のスポーツの発展への期待を込めて
Bリーグの幕開け
Bリーグは2016年9月に開幕し、 現在3シーズン目を迎えています。Bリーグ発足以前、 日本バスケットボール界は長く苦難の時期を経験してきました。 1990年代に一世を風靡した漫画「SLAM DUNK」の影響で競技人口が増加する追い風がありながらも、 トップリーグがNBLとbjリーグの2 リーグへと分裂したり、複数のクラブが経営破綻したりと、 運営上の問題を数多く抱えていました。特に2リーグへの分裂は、 FIBA(国際バスケットボール連盟)から非常に問題視され、 2014年にはJBA(日本バスケットボール協会)に対し、 オリンピック予選を含む国際大会への参加資格剥奪という制裁が科 されるに至りました。これを受け、川淵三郎・ 初代Jリーグチェアマンがリードするタスクフォースが組織され、 その後、 Jリーグで川淵氏の右腕として活躍していた銀行出身の大河正明氏 を初代チェアマンに抜擢し、 統一リーグであるBリーグの設立へと動き出したのです。
Bリーグではその使命として以下の3点が掲げられています。
- 世界に通用する選手やチームの輩出
- エンターテイメント性の追求
- 夢のアリーナの実現
最初の1.こそ、競技力に関連した項目ですが、残りの2. と3.についてはビジネスを強く意識したものとなっています。 我々はこれが極めて画期的なものだと考えています。従来、日本のスポーツ組織は、 競技力向上にフォーカスしたものが一般的でした。「体育」 として発展した背景を持つ競技が多かったためか、 競技力の向上を通じて心身を鍛錬し、いわゆる「強いチーム」 を作ることに主眼が置かれていることが多かったといえます。 そして資金についても、「強いチーム」 が活躍することによって観客や社会の注目を集め、 そこに助成金やスポンサーシップを紐付けるのが基本の考え方とな ってきました。 いわば競技力向上を起点とした事業のサイクルとなっていました。
一方Bリーグでは、ビジネス色が前面に出されています。「 強くなり、そして稼ぐ」のが従来のアプローチだとすると、 Bリーグでは「稼ぎ、そして強くなる」 という従来とは真逆のアプローチが採られているといえます。 このため、 チームの強さに関係のないビジネスノウハウを最大限に活用してク ラブが活動資金を確保し、その原資を活用して「強いチーム」 を作っていき、さらなる収益力の増加を目指す、 という事業サイクルを目標としています。
このBリーグのビジネス色が強く表れているのがそのマーケティン グ施策です。 Bリーグ創設にあたり綿密な観戦意向者調査が行われ、若年層( 特に女性)がターゲットセグメントとして据えられました。 そして、彼らの特徴「SAMIT」(Sociability & Stylish:集団観戦型・オシャレ、Active: お出掛け好き、Mobile / Magazine First:スマホや雑誌で情報収集、Influencer & Trendy:発信もシェアも積極型・流行に敏感)、 に合わせた施策が開幕当初から展開されています。チケット購入・ 入場・中継視聴・グッズ購入・ 情報収集等が全てスマホ上で完結できるようになっているのもその 一つの例です。こうした施策の結果、実際に2017- 18年のBリーグ会員の平均年齢は35.4歳(Jリーグは41. 6 歳)と、若年層の取り込みに成功しています。
スポーツ界へのインパクト
Bリーグの事例は、 ビジネスとしては必ずしも結果が伴ってこなかったスポーツであっ ても、「ブレないビジョン」の元に「ビジネス感覚を持った人々」 に権限を持たせ、「やり切る」ことを続ければ、 結果が出る可能性があることを示唆しています。
また、Bリーグ開幕は結果的に、 競技力向上にも重要な役割を果たしているといえます。つい先日、 実際に男子日本代表チームがワールドカップに13年ぶり( 前回は開催国枠のため、自力では21年ぶり) の出場を決めました。今後、 ビジネスを起点とした事業サイクルを回しながら、 競技力向上も果たしたことがより明確になれば、他の競技団体・ スポーツ組織等もその事業スタイルに舵を切ることが考えられ、 我が国のスポーツ界にパラダイムシフトを起こすことになるかも知 れません。
本レポートでは、Bリーグを構成するB1・ B2クラブの経営の実態を11のKPIを設けて分析しています。 通常、スポーツでは競技結果がフォーカスされるものですが、 本レポートではBM(ビジネスマネジメント・経営) にフォーカスして、ランク付けを行っています。 ビジネス色の強いBリーグですが、 クラブ単位で見るとその実力には差があることがよく分かります。 Bリーグが掲げる「BREAK THE BORDER」 をビジネスの視点から感じていただければ幸いです。
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