(本稿ではデロイト トーマツグループより2019/6/25に発行された「Bリーグ マネジメントカップ 2018」の中より、私が執筆した記事を転載します。著作権は同グループに帰属します)
COLUMN③
デジタルマーケティング (1/2)
近年のスポーツビジネス界では、デジタルマーケティングが非常に注目されてきています。我々デロイト トーマツのスポーツビジネスグループもこの流れはスポーツビジネスマーケットの発展・拡大には不可避であると考えています。BリーグマネジメントカップのKPIにおいて「SNSフォロワー数」を採用しているのもそのような背景があるためです。
「スマホファースト戦略」
現在のBリーグのシステムでは、チケット購入・入場・中継視聴・グッズ購入・情報収集等を全てスマートフォン(スマホ)上で実施・完結できるようになっています。アプリを用いて試合日程やニュースをチェックしたり、そのままチケットを購入したり、友達にシェアすることも可能です。そして当日のアリーナでは、QR コードを表示で入場することが可能です。加えて、試合をDAZNやバスケットLIVE等のOTT (動画・音声などのコンテンツサービス)で視聴できるなど、ファンがBリーグを楽しむためのありとあらゆる活動がスマホ一台でできるように設計されています。
Bリーグでは、創設を前に綿密な観戦意向者調査が行われ、若年層(それも特に女性)に観戦意向者が多いことを掴んでいました。そのため、この層がターゲットセグメントとして据えられた訳ですが、同時にこのセグメントが「SAMIT」と呼ばれる以下の特徴を持っていることも明らかになりました。
- Sociability & Stylish:1人ではなく集団で観 戦したい / オシャレに関心がある
- Active:家にいるよりも外出することが好き
- Mobile / Magazine First:テレビやパソコン ではなくスマホや雑誌で情報収集する
- Influencer & Trendy:情報発信やシェアも 積極的に行い、流行に敏感
この特徴をベースに彼らに訴求する打ち手として考案されたのが「スマホファースト戦略」です。結果、実際に2017年のBリーグ会員の平均年齢は35.4歳(Jリーグは41.6歳)と、若年層の取り込みに成功しているといえます。
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SAMITとは |
さて、「スマホファースト戦略」は単にターゲットセグメントを試合の観戦や視聴へ取り込むということに留まりません。デジタルプラットフォームを活用すると、人々の属性や行動といった膨大な量のデータを取得・管理し、分析することが可能です。Bリーグでは、顧客データベースをクラブ毎に持たせるのではなく、リーグに一元化することで、クラブ単位の個別最適ではなくリーグとしてのマーケティング全体最適を可能たらしめています。Jリーグでも2017年よりJリーグIDを発行しリーグの統合データベースを設ける等、同様の試みを進めていますが、既に複数のクラブが独自のCRMシステムを稼働させているという状況でもあり、プラットフォームの統合には苦心している様子が窺えます。Bリーグではゼロスクラッチからリーグを立ち上げるこの時期を逃さなかったからこそ、見事に統合プラットフォームを導入できたものと考えられます。統合プラットフォームの構想はリーグ単位に留まらず、将来的には日本バスケットボール協会の競技者データベースとも統合し、バスケットボールをプレーする人・見る人を“ゆりかごから墓場まで”包括的にサポートすることを目指しています。
SNS戦略
先述のターゲットセグメントの特徴である「SAMIT」のM、I、Tは繋げると、モバイル端末で情報収集をし、情報発信・シェアを積極的に行うということになりますが、これらの実行ツールはSNSに他なりません。Bリーグでは、ここに着目し、SNS活用を強く意識した各種施策を行っています。
まず、リーグ創設に際し、B1・B2全クラブのFacebook・Twitterの公式アカウント開設を推進し、クラブがSNS上で発信を行うための土台を形成しました。次に、各クラブがSNS活用に長けているとは限らないことから、有効活用のためにクラブ向けのSNS勉強会をリーグが開催し、活用のためのスキル・ノウハウを伝授しています。さらに、各クラブへのリーグ配分金の支給額の算定にあたり「SNS貢献度」をファクターの一つに加える等、SNSをマーケティングに役立てるためのインセンティブの付与も行っています。本稿のKPIである「SNSフォロワー数」はどのクラブも大幅に値を伸ばしていますが、その背景にはリーグ主導のこのような戦略と施策があると考えられます。
また、各クラブ5人以上の所属選手の個人Twitterアカウント開設をリーグが推進したことも画期的です。これまで日本のプロスポーツにおいては、炎上リスクを恐れてどちらかというとクラブは選手個人のSNSでの発信に及び腰でした。しかしBリーグでは選手とファンとの距離を縮めるべく、上記の通りTwitter利用を推進しています。リーグとクラブに加えて選手からの生の声がファンに直接届けば、ファン・ブースター心理は大いに刺激されるでしょう。この点で、Bリーグは日本のプロスポーツ界の慣行に一石を投じたといえるのではないでしょうか。
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Bリーグの各種SNS施策 |
ちなみに、SNS活用に積極的なBリーグですが、リーグ創設にあたって構想の最初の段階からSNS活用の壮大な戦略と施策のアイディアがあったのかというと必ずしもそうではなかったのが興味深い点です。Bリーグの葦原一正事務局長はメディアのインタビューで、「B リーグのSNS活用の原点は、そもそもバスケットボールの注目度が低く既存メディアが大きく取り扱ってくれなかったため、自分達で発信するしかなかったというところにある」と回答しています。このように、逆風を活かして、結果的に大戦略の軸としてしまっている点に、B リーグのビジネスマインドが滲み出ているといえます。アリーナでリーチできるファン・ブースターは多くても1試合概ね3~4,000人ですが、SNSであればその何倍ものファン・ブースターに試合の有無に関わらずリーチできます。そのため「SNSフォロワー数」はクラブの社会への影響力の大きさを測る一つの指標であるといい換えることができるのです。今後も、ファン・ブースターとのコミュニケーション、そしてファン・ブースターの拡大という点でSNS活用はBリーグの一つの注目ポイントであり続けることでしょう。
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